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ナチュラルセンス/当たり前な感覚
 池田 昌弘

ナチュラルセンスとは、新しいテクノロジーによるコラボレーションから生まれてくる今まで予測できなかった状況が目の前に現れるときに感じる感覚のことである。それは、今までにない、当たり前な感覚であろう。それがどんなものになるのかは、予測することはできない。おそらく、でき上がってくる建築にそれを感じることができるのではないか。つまり、それは全体を統一するイメージではなく、個々の積み重ねから生み出されてくるものなのだ。しかし、これは、あくまでひとつの仮説である。
もちろん、まだ始まったばかりだから、実際にどうやってシミュレーションしていくのかは、これからもひとつひとつ確認していかなければならない。些細なことからで十分だ。もし、生まれてきたものが、今までのものよりよくなっていなければ、何もしないほうがよかったということになる。
たとえば、ある建築のアイデアがあって、特に無理なくそれが今までの一般的なテクノロジーでも実現できるのであれば、それで十分である。そこにはそれ以上のテクノロジーが存在する意味がない。それは悪い意味ではなくて、本当にそれで十分なのだ。そうではない新しい建築を生み出したいときこそ、はじめて、テクノロジーが進歩する意味が出てくる。そのためには、建築とテクノロジーはリンクしてお互いにレベルアップしていかなければならないのだ。どちらが先とかはない。それは、ナチュラルセンスへの期待だ。そのためには、建築家、構造家、設備家といった境界をこえてお互いにフィードバックしあい、コラボレーションを通して建築を設計していくことだけが、私たちが積み重ねでいかなければいけないことである。
そういうせめぎあいの中から生まれてくるものこそが、今までにないけれども、どこから見ても当たり前の建築になっていくのではないだろうか。

(『新建築住宅特集』1999年6月号「今までにない、あたりまえなこと」より)

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